進歩するとんかつ屋
2000.04.22
オレの昼飯には大きく分けて2種類がある。1つはカミさんの作る弁当。もう1つは外食である。外食の時は会社の人と連れ立って行く場合がほとんどであり、会社から近い定食屋とかラーメン屋とかイタリアンレストランとかそういった店に行くので、候補がいくつか決まってきてしまう。勿論、ホカ弁屋で買ってくるなどの選択肢もあるけれど。そんなわけで、外出するついで等で自分一人で外食をする時となると、俄然 「いつもとは違う店に食いに行くぞ~!」とか奮起するのである。ちょっと不気味だ(笑)。それで、ある日オレは「とん信」という普通のとんかつ屋に入った。いや、この店は別に初めてではない。過去にも会社の人と一回、自分一人で二回ほど来ている。会社と駅との丁度中間ぐらいの遠さなので、あまり来ることが無いだけなのだ。ランチタイムで750円(外税)のとんかつ定食をオーダーしたオレはとりあえず新聞を読みながら出来あがりを待っていた。するとである。なんか、聞こえてくる音声が、突如として全く違う内容に変わったりする。よく店内を見ると14型ぐらいのちっこいTVが天井から近い高さにセッティングされ、つまり、店内の誰もがそれを見ることが出来るようになっている。まあ、どこにでもある風景だ。そして、それに気づいてから、なるべくTVの内容に注視した。もうこうなると新聞を読んでる場合ではない。映されているのは地上波と呼ばれる一般の1~12CHまでのテレビ番組だということはすぐにわかった。そして、たとえば10CHがしばらく映っていたかと思うと、数分後には1CH、そしてまた数分たつと12CHへ、といった具合に、チャンネルが移っていく。誰かがリモコン操作しているようだ。オレはカウンターに座っていたので、とんかつ屋の主人が料理を作るその真ん前だ。そして、チャンネルが変わる時、必ずその主人が画面のほうに向いているのに気付いた。つまり。このご主人、真面目に注文されたのを作ってればいいものを、多少客が減ってきて(入ったのは1時台だった)暇なのをいいことに、その今かかっているテレビ番組がつまらなければ、容赦なくチャンネルを替えていくのだ。これはいわゆるザッピングである。仕事しろよ、おい!と思ったのは言うまでもないが、でもご主人はザッピングに熱心で、こちらの驚きは知る様子もない。他の客もなんとも思ってないようで、というよりは、そもそもテレビを見ていないので、気付いていない。この「とん信」の店内は、サラリーマン二人組が二組、主人と奥さんか分からないが、注文をとったり料理を運ぶ女性一人、そして、数分ごとに内容が変わっていくTV受像機と、オレだけである。ちょっとアートかも、と思った(笑)。だいたい食い物屋でかかっているTVなんて、いついっても同じチャンネルがついていて、しばらく放っておかれるのが常である。まあ、番組の変わり目で主人が好きな番組に変わるってことはあるにせよ。そんなオレの固定観念を「とん信」のご主人はザッピングという手法で鮮やかに覆してくれた。感謝しなければいけないな、と思いながら注文したとんかつ定食を平らげた。