哀しい、哀しい、出来事 1
2002.1.3
新年明けましておめでとうございます。今年もYATZWEBをよろしくお願いいたします。しっかし年末年始のTV番組ってどうしてこんなにもくだらなくなっちゃったんだろう?昔はもうちょっと見所があったように思うが、気のせいだろうか。それともただ単にオレが年をとっただけだろうか。でも、2日深夜に放送されたベストヒットUSAリターンズは好企画だった。ゲストの小室と、時折入ったミュージシャンの回想(石井竜也とウルフルズね)は不要だったけど。
さて、今回は昨年オレが体験した悲し~い出来事。読んでる人はなんとも思わないと思うけどね(笑)。でも、結構厭な話なので、お正月向けではないかも。しかも長いし。ごめんなさい。
埼玉県のとある楽器店。オレはバンドの練習のためにクルマに楽器もろもろを積んで規定の時間よりだいぶ早めに到着した。早めに行ったのはシンセサイザーの修理を頼む用事があったからで、修理を依頼し終わり、クルマを置いた位置を思い出してオレは言った。「あの、僕のクルマの後ろに他のクルマが、えっとプリメーラかな? が置いてあるので、移動の時は言ってください。」店長さんは「そうですか、わかりました。車種とナンバーを教えてください」と爽やかに応対してくれ、オレはその件を忘れずに告げることの出来た軽い満足感(笑)を伴ってスタジオに入った。2時間か3時間ほど経った時、我々のスタジオに他の店員さんが入ってきて「青のカルタスワゴンの方いらっしゃいます?」と聞くので「あっ オレですオレです」と言いながらスタジオを一旦出た。と同時に他のメンバーも「オレも車動かそうかな」とか言いながら一緒に出てきた。くだらない雑談を交わすオレ達を乗せたエレベーターが1階に到着すると、オレは後ろの車のオーナーを待たせている事を考えて真っ先に店の出口から小走りで駐車場へ向かった。その駐車場というのは、奥行きがクルマ2台分あるので、全員詰めて駐車する。後ろ(奥側と言うべきか)になってしまったクルマのオーナーは、自分が出る際には1階の店員へそれを伝え、店員が然るべき場所に連絡して前のクルマのオーナーを呼び出し、移動してもらう、というシステムになっている。運悪く前に止めたオーナーは、自分が100万もするピアノを物色していようが、たった30分のレッスンの真っ最中であろうが、とにかくその連絡を受けた場合にはその手を止めて、駐車場へ移動しに行かなければならないというシステムに、残念ながらなっている。その楽器店はオレが高校生の時にもお世話になったとか、仕事でもプレゼント企画で協賛してもらったとか、つい数年前はベースを習いに行っていたし、色々と世話になっている良い店だが、このシステムにはいつも閉口する。
で、とにかくオレは走りながら後ろのプリメーラへ軽く会釈して、自分のクルマを移動したわけである。そして、空いた奥側へ自分のクルマを移動し終わった時、全く予想のつかなかった事が起こった。後ろのクルマのオーナーがツカツカとオレに歩み寄ってきて、オレに説教を始めたのである。いや、最初は説教でなく質問だったけど。
「すいません、何階にいたんですか?」
オレ「えっと、5階ですけど」
ここから彼女(言い忘れたが、20代後半から30代という感じの女性だった)の怒涛の説教(と言うよりはとにかく自分の怒りをわめき散らす、すべての言葉を続けざまに発言する行為)が始まった。曰く「どうして何十分も私を待たせて、お詫びの一言も無いんですか?」「ここはみんな行く部屋をあそこに置いてある紙に書いて、フロントガラスに貼ってるんですっ! みんなそうしてるんです!」「私も次の仕事があるのに遅れたらどう責任をとってくれるんですか!!」などなど。オレはこういう人が苦手であると同時に大嫌いだ。相手の言い分を何も聞いてないくせに、自分が正しいと信じ込み、初対面にも拘らず罵倒する。みなさんはお分かりだと思うが、オレは何一つ悪くないのである。事実その1:オレは店員に最初から移動の可能性がある、その際は言ってくれと伝えてあった 事実その2:店員に呼ばれた瞬間、自分の作業を中断して駐車場へ(しかも小走りで!)来た 確かに、紙に書いて貼るなんてのは怠ったわけであるが、オレは以前レッスンを受けていたときには自分専用の駐車票が発行されて、それをグローブボックスから取り出してダッシュボードに置くだけで良かったので、紙に書くなんてことは一度もしたことが無いし、1Fの店員に告げる、という今までのやり方でトラブルになったことが一度も無いのだ。
さあ、どうする。怒り狂って怒髪天を衝きそうな女性(言っちゃ悪いが頭もルックスもよろしくない)と、ちっとも悪くないのにメチャメチャ怒られている (こっちの頭とルックスはこの際考えないこととする)30歳男子の対決。オレは白旗をあげて降参してしまった。腕組みをして、ちょっと困ったような顔をしながらも、とりあえず相手の言いたいことをすべて聞いたうえで「それはどうもすみませんでしたねぇ」とだけ答えて、その場を終わりにしてしまったのだ。こんな理不尽なことは無いだろう。オレは事実を述べるべきだったのかも知れない。「いや、僕はちゃんと言いましたよ」「店員さん同士でうまく伝わってなかったのかな?」いろんな返答が頭を駆け巡ったが、すべて相手にしてみればどうでもいいことだろうな、と勝手にオレの中で解決してしまった。「今、この瞬間ここにいるバカ女が求めているのは原因の追求よりも何よりもオレからの謝罪なんだろうな」と結論付けた上で「すみません」と言ったのである。もちろんこのすみませんは、オレにしてみれば謝罪ではない。謝罪であれば「申し訳ありませんでした」と言うから。謝りたくないけど、これ以上この気違いを相手に話しても埒があかないだろうし、バンドの練習時間が減ってしまうよ、との思いから妥協案として出した「すみません」だった。いや、多分彼女は精神異常ではないだろうけど、そう言われても仕方が無いおかしな目つきをしていた。こういう人とは会話が成り立たないな、とすぐに分かった。仕事でたまに苦情電話の応対をすることがあるが、相手が男性か女性かで、オレは応対方法を変えることにしている。別にどちらが悪い、良いという意味ではないので勘違いして欲しくないんだが、男性はおおむね「話せば分かる」タイプである。というより最初から「これは私というユーザーの貴重な意見なんだぞ」という感じで文句を言ってくるから、ある程度話して誠意が伝われば最終的には「じゃ、よろしく頼むよ」みたいな感じでなごんでくれる。時にはオレの苗字を知って「へ~珍しい名前だねぇあんた」みたいになる場合もある。女性の場合。言えば言うほど泥沼になる。と言うよりは何も言わないのがベストと言い換えてもいい。本当に自分が感じたことだけ言って、しまいにはガチャ切りするやつもいる。少し話がそれるが、オレが勤める会社における苦情というのは、相手が名前や住所を言ってくれない限り、業務改善に繋がらないのだが、「自分の名前や住所は明かしたくないが文句だけは言いたい」という気持ちで電話をしてくるのは女性が多い。こういうのを「たちが悪い」って言うんじゃないのか。本当に気分が悪い。苦情そのものは特に嫌いではないし、むしろ「あなたに話を聞いてもらえてよかった」的な老人相手のカウンセラーになってしまう場合もあったりして、それは大切な仕事として認識しているが、その、女性に多い「吐き捨て型」の電話の後には厭な気分しか残らないので、こういうのは遠慮したいのである。何を言っても通用しない、聞く耳を持たないということは、どんな言葉も力を持たないということだ。そんな人間にオレの言葉をぶつけたくない。誰だってそう考えるよね。そして駐車場の女性にオレはそのイメージをダブらせて「こいつにオレの言葉をぶつけたくない」と思ってしまったのかも知れない。
この時点では誰の責任でこのような事になったのか分からなかったので、店内に入って、「今の人すっごく怒ってたんですけど、誰ですか? 何十分も待ったって言ってましたけど」と詰問すると、どうやら事の発端はこういうことらしい。女性はピアノ講師で、クルマの移動の話を2階の店員(本来は1階に言うべきである)に話し、店員が2階近辺を探し回ったが当人が見つからず(当たり前だ、オレは5階にいた)、やっとこさオレのところへ店員が来た時には結構な時間が経っていた。オレにしてみれば「何だそりゃ?」である。ここの駐車場は基本的に講師が自家用車を置いてはいけない決まりになっている。どうやらルールをよくご存知でないピアノの先生が、置いてはいけない客用の駐車スペースに車を置いたあげく、どかす際にはトンチンカンなところへ申し付けたもんだから、自分が損しただけの話だ。最初から1階に「青い車を移動するように言ってください」と言えば良かった。
オレは最初怒っていたけど、その怒りは徐々に悲しみに移り変わった。オレが軽い満足感(しつこい(笑))を伴って店長に「後ろにプリメーラがあるので~」と告げた気持ち、店から駐車場まで小走りに走った時の気持ち、全部、このバカ女は踏み潰してくれた。確かにいろんな不幸が重なったんだと思う。ルールをよく知らなかった女性、そんな用紙があるのを知らなかったオレ、うまくオペレーションを連携出来なかった店員、みんなそれぞれ不幸だ。でも、どう考えたってオレはそれほど悪くない。やるべきことはやっていたはずだ、用紙記入以外は。
この一件があって以来、ここの楽器店には足を運びたくないと思うようになった。誰が悪いとかそういうことではなく、単にこの出来事を思い出したくないからである。オレは大口顧客でもなんでもない、元生徒であり、逆に激安で物を売ってくれるところなので、オレが行くのをやめたとて売上減にはつながらないし、別に店舗があるからどうしても用事があれば別の店舗へ行けばいい。ただ、どうしてもあの店、あの駐車場へは足が向かないだけである。オレはこのことが一番悲しい。