サバイバル

 2000.06.06

ある夜、カミさんと2人でTV番組を見ていた。その番組はいわゆるトーク番組であり、ゲストは以前柳沢というサッカー選手と噂だったことのある梨花(りんか)という女だった。騒がれた当時は、この女とのデートのために日本代表を外されたとあって、相当に物議をかもした記憶がある。そして、その騒動はオレの何気ない一言に端を発したのである。

やっつ(以下やつ)「ねぇ、この女さ、こないだフライデーか何か写真週刊誌に載ってたじゃん」

かよこ(以下かよ)「どうして?」

やつ「男と一緒にいる所を写真に撮られたんだよ」

かよ「あ~、あの、柳沢?

やつ「いつの話だよ、それ。違う違う。お笑いやってるやつだよ」

かよ「誰よ」

やつ「んっとねぇ・・。5文字だよ」

かよ「えっ?」

やつ「コンビの片方でさ、5文字のコンビ名なんだ」

かよ「わからない」

やつ「あっ あっ 思い出しそう。そうそう、サがつくぞ」

かよ「サが付くのね?」

やつ「そう。サで始まる5文字のお笑いコンビ。サバイバル! 違うなぁ。サドンデス!・・・なんかピンと来ないよ。」

かよ「サで始まるんだ」

やつ「いや、わからない」

かよ「なんでよ。それじゃわかりっこないわよ」

やつ「あのねぇ、聞けば、「ああ、それそれ」って思うし、名前自体が、日常会話に出てくるありふれた単語なんだよね」

かよ「ふ~ん。どんな顔してるの?」

やつ「黒ぶちのメガネかけてて、目はこんなで(と言って目じりを横に引っ張り、細めにする)、エラが張ってる」

かよ「ボキャブラとか出てた?」

やつ「出てない、出てない」

-オレの出すヒントでは全くわからないらしく、カミさんはオレが期待するような回答をよこさない。こういう時のイライラ加減をどう文章で伝えたらよいだろう。-

やつ「なんで思い出せないんだよ。ほら、よく「風まかせ」に出てきて1万円だけで旅行とかしてただろ」

かよ「私は「新・諸国慢遊記」のファンじゃないからわからん!!」

-今はやってないであろう、土曜のお昼の番組名を出しても2人はわからない。-

やつ「サだよ、サ。う~ん、サリンジャー?」

かよ「違うでしょうよ」

やつ「ああ~、もう、イライラするっ」

-オレはここでさらなるヒントを思いつく。-

やつ「確かね、三上ってやつだな」

かよ「三上?」

やつ「そう、三上ってやつがいるはずだぞ、そのコンビは」

かよ「はぁ」

-ここまで言っても思い出さないとは、ずいぶん度胸の据わった嫁である。-

やつ「えっと、誰だっけかなぁ~ サバイバル!」

かよ「しつこいよ。え~ サで始まる人たちでしょう~?」

やつ「それはわからないよ」

かよ「でも5文字なのね?」

やつ「いや、それも怪しいぞ」

かよ「ちょっと待ってよ! ちっとも手がかりが無いじゃないよ」

やつ「いや、だからね、普通の単語なんだってば。それで、その写真撮られたやつは、黒ぶちのメガネかけてて、確か三上っていうんだよ。」

-顔はわかっている。声や雰囲気もバッチリ脳裏に現れているのに、名前が出てこない。時計を見ると午前1時をとうに過ぎている。-

やつ「うちにはタレント名鑑って無いのか」

かよ「無い」

やつ「どうして買っておかないかなぁ、タレント名鑑。ほら、六本木の青山ブックセンターに行けば朝の5時まで開いてるんだから、ひとっ走りして買ってきてよ」

かよ「あんたが行って来なさいよ」

-主人がこんなに悩んでいるのに冷たい反応だ、と思ったあなた。うちのカミさんも仕事をしながら育児も家事もやっているから疲れてるんです。どうか責めないでもらいたい。-

やつ「よし、こういう時にインターネットで調べるんだよ」

-パソコンを立ち上げ、もっともよく使う全文検索サイト「InfoSeek」につなぐ。「お笑い」「お笑いタレント」「三上」などを組み合わせてAND検索を試みるも、どうもお目当てのサイトにたどり着かない。出てくるのはホリプロや吉本関連か、三上博史の情報ばかりである。「フライデー」「フォーカス」系もチェックしたが全滅であった。

もうオレもカミさんもこの自分たちのあまりにバカなやり取りに笑い転げて、疲れきっていた。結局、この日はなんというコンビ名かはわからなかった。-

-数週間が経ち、オレは再び「InfoSeek」にて「お笑いタレント」「梨花」で絞り込んでみたところ、アッという間にお目当てのサイトが見つかった。そこは芸能人のゴシップネタばかりを集め、自分のコメントをつけている個人ページであった。そして、オレが言いたかった人間の名は、

「バカルディ」の大竹一樹だったのである(爆笑)。

サも付かなきゃ、そこらに転がってる単語どころではなく、しかも、相方は三村だが、三上なんて奴はいない、バカルディの大竹だったのである。

この事実をカミさんに伝えたところ「合ってるのはバだけだ」と言われた。ごもっともである。やはり、夫婦円満のためにも、一家に一冊「タレント名鑑」だなぁと感じた数週間であった。

※著者注:当時「バカルディ」だった彼らは現在「さま~ず」と名乗っています。当やっつうえぶにて「サ」がつく、って書いてたこととの因果関係は現在鋭意調査中です。